マンションやビルなどの大規模修繕を行うに当たり、ベランダにある避難ハッチが腐食していて交換対象に含まれている場合があります。
そんなとき、関係者からはよくこんな話しを耳にします。
“避難ハッチなんて金物の一種だから、届出なんて必要ないよ。”とか、“消防点検はやっているから、その会社がやればいいんだよ。”など。
中には、“特に言われていないから必要ない。”なんていうのも。
実際、ほとんどが無届で施工されているのではないでしょうか。
しかし本来は、たとえビス1本交換しても届出の義務はあるのです。
これはすべての消防設備について言えることです。
1台でも交換したらすべて申請が必要。
じゃあ、すべて申請すれば問題が起きないのかというと、それもまた話が違ってくるのが難しいところ。
既存の建物では、居住者がおり自由気ままに生活しています。
新築時の未入居の状態には法律をパスした建物でも、一旦入居してしまうと住みやすくするために、独自の判断でいろいろ仕様を変えてしまいます。
たとえば一番多いのは、物干しです。
後付タイプで天井と床を突っ張り棒で支えるものや、床に重しで置くタイプのものがあります。
これを避難ハッチの上や下に設置してしまったり、隣との隔離板の近くに設置してしまうのです。
当然避難ハッチは開閉ができなくなり、避難に支障をきたします。
当事者は自分でやっているので自覚があり、いざという時にはどければと考えるかもしれません。
しかし、上の階の方は避難ハッチの下に物が置いてあって使用できないことなど、知る由もありません。
隔離板の場合も同様です。
隔離板は、非常時に隣からそれを破壊して避難してくるものです。
そこに物があれば、当然避難できなくなります。
ですから、消防はそれを認めるはずがありません。
でも居住者の中には、いつ使うかわからないものに規制されるより、今快適に生活することが大切と考える人が多いのです。
そこに、トラブルが発生するのです。
第三者であれば正しい事は主張できても、自らが不便を感じる当事者になったとたん別の話になるのが世の常。
それが消防申請することとどんな関係があるのか。
消防申請をすれば消防は内容を審査し、必要に応じて現地に立ち合い検査に来ることがあります。
来れば消防は、器具だけを見に来る訳ではなく建物全体の管理状態を確認します。
そうなれば、上記のような居住者が多く存在する共同住宅であった場合、どのような事になるかは想像つきますね。
実際、裁判まで発展したケースもありました。
ある分譲マンションの(2F)避難ハッチの下が駐車場の駐車区画になっている建物があり、立ち合い検査で区画を使用しないよう消防より指摘されました。
しかし駐車区画を使用する居住者は、敷地内駐車ができる事がマンション購入条件だったと主張し一歩も譲りません。
とはいえ、購入して何年も経過した建物には他に空き駐車スペースはなく、敷地内駐車ができない場合は購入代金を返却するよう不動産会社に要求しました。
一方指摘した消防署は、法律ですから民事のことは関係ありませんと言い、あげくには対処しなければ不適合物件として使用させないと言い切りました。
その後どうなったのかはわかりませんが、こんな大きな問題に発展してしまうこともあるのです。
本来、私たち消防関係の仕事をする立場では言ってはいけないのですが、必ずしも馬鹿正直に進めるのが良い選択肢ではないという事です。
関係者の方々はそれらの事をふまえ、消防設備の補修・改修において消防申請は必要なもの、だけど安易には考えぬよう十分検討してお決めください。